先日、MLBで今月30歳になる1人の投手がメジャー初昇格を果たしました。アスレチックスのパット・ベンディット投手です。昨オフにアスレチックスとマイナー契約を結び、ここまで3Aの試合で好投が評価されました。この選手、実は左右両投げのピッチャー手なのです。
クレイトン大学時代の2008年、ドラフト20巡目で名門ヤンキースに指名されます。プロデビュー戦は2008年6月19日の1Aでのブルックリン・サイクロンズ戦でした。9回2アウトランナー1塁の場面で、スイッチヒッターのラルフ・エンリケス選手と対戦します。初マウンドで、「スイッチピッチャー対スイッチヒッター」という夢の対決を実現してしまいます。ベンディット投手は、初め左投げで準備していたそうですが、エンリケス選手が右打席に入ったのを見て右投げにスイッチします。それを見たエンリケスが左打席に移動するといったように、1球目を投げる準備におよそ5分も要したそうです。ちょっとしたコントですよね?これに業を煮やしたベンディット投手は審判に抗議し、最終的に審判団が協議の上、まず先に打者のエンリケス選手が打席を選択するよう指示し、右対右の対決となり、ベンディット投手が三振を奪って勝利したのだそうです。
この当時、「打席と投球する腕の選択では、投手と打者のどちらが優先するか」というルールがリーグに存在せず、「右対左」「左対右」といった様な、打者から見て相手の利き腕と逆の打席に入る方が有利であることから生まれたエピソードでした。その後、「投手が先にどちらで投げるか示さなければいけない」という公式ルールが定められ、「パット・ベンディット・ルール」と呼ばれる様になります。これを受けて、日本でも2010年の公認野球規則に8.01(f)が追加されました。その内容は、次の通りです。
【野球規則8.01『ピッチャー』投球姿勢(f)】
– ピッチャーは、球審、バッター及びランナーに、投手板に触れる際、どちらかの手にグラブをはめることで投球する手を明らかにしなければならない。
– ピッチャーは、バッターがアウトになるかランナーになるか、攻守交代になるか、バッターに代打者出るか、あるいはピッチャーが負傷するまでは、投球する手を変えることはできない。
– ピッチャーが負傷したために、同一バッターの打撃中に投球する手を変えれば、そのピッチャーは以降再び投球する手を変えることはできない。
– ピッチャーが投球する手を変えたときには、準備投球は認められない。
– 投球する手の変更は、球審にはっきりと示さなければならない。
それでは、MLB初昇格のマウンド裁きをご覧下さい。英語版と日本語版です。
両手投げといえば、アニメ「ドカベン」で登場する選手を思い出します。群馬県・赤城山高校の木下投手です。あだ名は「わびすけ」といいます。両投げ右打ちで、投球モーションに入ってもまだどちらの腕で投げるか分からないという変則投球フォームを駆使します。まず背中の後ろで両手を組み、ボールを離す直前に頭の後ろでワインドアップの形になります。アニメの世界といえど、後ろで手を組んだままそれを頭の高さまで上げるのは不可能なので、実際には一瞬両手を離し、身体の前で再び合わせて振りかぶります。ドカベンの世界では、2004年にプロ球団である東京スーパースターズにテスト入団し、現在もローテーション投手として活躍しているのだそうです。パット・ベンディット投手が登場する前のお話ですので、変則投球も許されていたということになります… 何はともあれ、彼の高校時代の投球動作をご覧下さい。
最後に、両投げ投手のグローブはどうなっているか気になりますよね? 調べてみると、なんと6本指のグローブとして販売されています。
まぁ、拙も両投げできます!でも、実力の程は聞かないでください…